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30 ベートーヴェン / “幽霊”& “大公” ベートーヴェンはピアノ三重奏曲において、各楽器の役割や特性を超越してお り、時にそれらを——わき起こる霊感を優先して——無視してさえいるという ことでしょうか? DG : ベートーヴェンの音楽は、何よりもまず論弁的です。つまり、彼の意図が常に最優 先されているため、私たち奏者が自身の楽器を心地よく弾けるようなフレーズは限られてい ます。これらのピアノ三重奏曲において、弦楽器による“発言”の大半は句読点のようなも のであり、旋律的な音素材はかなり限られています。確かにベートーヴェンは、元来、優れ た旋律作家として有名な訳ではありません……じっさい、真に歌っているのは《ヴァイオリン 協奏曲》の終楽章の第2主題だけです!彼が書いた一連の偉大な弦楽四重奏曲の中に さえ、楽器の事情を考慮して書かれた作品は一切見当たらないように思います。その書法 は、常に“弾き心地”が良い訳ではありません。しかし、彼の音楽のねらいは心地良さでは ないのです。 PC : ベートーヴェンが、ピアノ・パートのあらゆる可能性を探求している点には驚かされ ます。彼以前のいかなる作曲家も、そして彼以後40年のあいだほぼ誰も、これほど徹底的 な探求を試みることはありませんでした。他方で彼は、この探求が前提とするはずの演奏技 術の問題を、完全に無視しているように見えます。そこには、まるで一切のタブーも抑止力 も存在しないように感じられます。彼のアイデアに資するあらゆるものが、各パート、とりわけ ピアノ・パートにおいて実現されているのです。

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