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フィリップ·カサール / アンヌ·ガスティネル / ダヴィド・グリマル 29 DG : ……“手持ち無沙汰”に感じている、と言いたいのかな?確かに、ブラームス——ある いはメンデルスゾーンやシューマン——のピアノ三重奏曲とは異なり、ベートーヴェンの作品 には均等な音の配分はみとめられません。今しがた名前を挙げた3人の作曲家たちは、各 楽器によりいっそうバランスよく役割を振っています!いっぽうでベートーヴェンのピアノ三 重奏曲は、たいていの場合ピアノが主役です。たとえば“大公”の終楽章は、いわばピアノ 協奏曲です。とはいえ、弦楽器パートの“単純さ”は見せかけに過ぎません。天才ベートー ヴェンは、弦楽器奏者たちが演奏中に居眠りしないよう、あちこちに小さな“落とし穴”を巧 みに仕掛けています! フィリップ・カサール(以下PC) : 2人の発言を和らげておきましょう……私が思うに、 それぞれのパートが多くの“仕事”をこなすベートーヴェンのピアノ三重奏曲が1つあるとす れば、それは“幽霊”です。この曲では弦楽器パートが絶えず“発言”します。その書法は、 じつに複雑で入り組んでおり、多声的です。チェロが受けもつのはバスだけではありません し、時おりピアノも、ヴァイオリンとチェロの対話に絡みます……。“幽霊”では例外的に、2 つの弦楽器が、ピアノが担う——極めて重要な——パートの単なる補佐役や傍観者として扱 われてはいません。おまけに弦楽器は緩徐楽章で2回、主題を託されます!

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