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アドリアン·ラ·マルカ 35 ヴィオラ奏者たちは、特異な聴取能力を具えているのでしょうか? 私たちは、他の楽器の目立つパートを“肉づけする”役割に慣れています。また楽器の特 性上、室内楽を頻繁に演奏します。主旋律を“歌う”ことは稀で、厚みのある和声や対旋律 を担うことが多いのもヴィオラ奏者の特徴です。したがってヴィオラ奏者は、他の楽器奏者 が奏でるパートを極めて強く意識しているような気がします。それはおそらく、私たちが協奏 曲のソリストを務めるさいに重要な意味をもちます……。なぜなら、自分の背後で起こって いる全ての動きを重んじ、それをほぼ同時に追体験しながら、主役を演じることになるから です。私は、協奏曲の演奏中にオーケストラの方を振り向き、各楽器セクションやソロ奏者 とじかに“対話”することも好きです。協奏曲のソロを受けもつことは、特大サイズの室内楽 曲を演奏することと同じだと、私は深く信じています。とりわけクリスティアン·アルミンクとリエ ージュ·フィルとは、それをじつに自然に実践することができました。彼らと、素晴らしい信頼 関係を築けたと思います。 自分らしさを追求できる、開かれた精神に満ちたレコーディング——それが今回の成功 の鍵でしょうか? そう思います。自分らしくいられれば、本心を伝えられます。リエージュでの“レジデンシー” 期間中には、オーケストラのメンバーたちと室内楽も演奏しました。それが、私たちの強い 絆と類まれな協力関係を育みました。個々の奏者たちと知り合い、親しくなると、音楽の響 きが変わり、音楽が一つの物語になります。本盤は、私のリエージュ·フィルでの“レジデン シー”活動の思い出と成果が描かれた、一枚の絵葉書にたとえられます。もしも私が明日、 何かを録音することになれば、また違ったアルバムが生まれるはずです。一つ一つの出会 い、一つ一つのコンサート、そして一枚一枚のディスクが、私という“建物”を変化させ、増 築し、大きくしてくれます。そこに終わりはありません。それが演奏家という職業の何よりの 美しさだと思います。
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