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フローリアン・ノアック 43 《束の間の幻影 op.22》は、言葉少なに語る20の小品から成る。“これらの小品は、私たちが 本質的と形容したくなるような何かに向かっていく傾向にあります。しかし私には、そのよう な自己主張が、この作品がはらむ最も重大な真実の一つに背いているように思えます。な ぜなら《束の間の幻影》は、小さな疑問詞の集合体だからです。”往々にして芸術作品は、 断言や主張を表現するものとみなされている。そうであれば、《束の間の幻影》の“疑問詞” を扱うことは、芸術創造の別の側面を問うことに他ならない。ノアックいわく、音楽創造が意 見の不在を特色とすることもありうる。現代アートにおいて虚無や問いかけを主旨とする形 式が大いに許容されていることをかんがみれば、《束の間の幻影》は、それらを先取りした 多くの作品の一つに数えられるだろう。この作品において、奏者は作品の伝達者になる代 わりに、“渡し守”になりうる。その場合ピアニストは、ある特定のメッセージを伝達することは しない。自分がその存在理由を把握し、指の間から生じる音楽がその総括となりうるような、 印象や不確かなものを聴き手へと運ぶのだ。この曲集において、プロコフィエフは実践を 通じて彼らしからぬ自由を手にしている。たとえば、自分以外の誰かになる自由を……。“ 時折り、プーランクからの影響が目立ちます。一方で、ぴんと張られ、今にも切れそうな糸 を連想させる感情表現は、まるでラヴェルの音楽のようです。”各曲の繊細な和声構造は、 えも言われぬ極小の大聖堂といった風情だ。それらはいずれも、(オペラ《ペレアスとメリザ ンド》で)メリザンドの目を見たゴローが発する叫びを想い起こさせる。“私からすれば、彼女 の目の中に潜む極小の秘密は、あの世の巨大な秘密よりもいっそう不可解なのだ!”

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