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フローリアン・ノアック 37 ノアックがプロコフィエフの音楽に初めて出会ったのは青春期である。母国ベルギーで開 かれたエリーザベト王妃音楽コンクールの決勝の模様をテレビで観たノアックは、このとき 優勝した若きセヴェリン·フォン·エッカードシュタイン(当時24歳)の途轍もなく主観的な演奏 に心を奪われた。曲はプロコフィエフの《ピアノ協奏曲第2番》だった。 当時のノアックは、乱れた髪のまま、こぶしを挙げてカミュの『異邦人』を読む多感な青年だ った。彼はすぐさまエッカードシュタインの録音を入手し、何度も繰り返し再生して演奏に 聴き入った。プロコフィエフの音楽の荒々しい急進性と、エッカードシュタインの自由な演 奏——そしてラマルティーヌ風の風貌——は、もとより熱気を帯びていた若きノアックの想像 世界をいっそう刺激した。こうしてノアックは17歳から18歳にかけて、鍵盤を強打し続けた。 重くのしかかる青春期の情熱を、プロコフィエフのピアノ音楽がはらむ“打楽器性”の中で 発散させながら……。

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