LDV72

28 シューベルト ニ長調のソナタD850からは、終始、幸福感があふれ出ている。シューベルトは1825年夏に ザルツブルクで目にした光景を、兄フェルディナンド宛ての手紙(1825年9月12日付)の中 で描写している。この文章を読むだけで、シューベルトの旅の体験がそのまま音楽に置換 され、昇華されたことが手に取るように分かる: “ザルツブルクの谷間から、雪に覆われた山々の頂が突き出ているのが見えます。(略)ヴ ァラー湖の一面には澄んだ青緑色の水が広がり、この心和む土地に、実に素晴らしい活 気を添えています。(略)山々はますます天高くそそり立ち、ひときわ高くそびえるウンター スベルク山の壮麗なシルエットは、まるで魔法にかかっているかのようです。(略)僕たち が登ったノンベルクの下には(略)絶景が広がっていました。そこから、ザルツブルクの谷 の底が見えます。(略)見渡すかぎりに広がる庭園、(略)美の極みともいえる多彩な絨毯 のごとき草原や野原、幾本ものリボンのように絡み合う壮麗な牧草、そして巨大な樹木 が並ぶ果てのない道を、思い浮かべてみてください。それら全てが、いわばこの崇高な渓 谷の番人である壮大な山並みに、ぐるりと取り巻かれているのです。”

RkJQdWJsaXNoZXIy NjI2ODEz