LDV70

43 オリヴィエ・ラトリー さきほど、ノートルダム大聖堂には多声的すぎる作品はあまり向かないとおっしゃいまし たが…… アルバムでは、かなり幅広い選曲を心がけました。そのため《音楽の捧げもの》の〈6声のリチ ェルカーレ BWV1079〉のように、ずいぶんと多声的な作品も含まれています。もちろん演奏 の際には、一つあるいは複数の声部を異なる鍵盤を活用して独立させ、ポリフォニーの明瞭 さを保つ必要があります。 バッハの傑作の一つである《パッサカリアとフーガ ハ短調 BWV582》も多声的です。“パッサ カリア”は舞踏に由来します。曲は主題と20の変奏から構成されており、より厳密にいえば、 冒頭の主題を切れ目なく変容させていく手法が取られています。音楽分析によって、この作品 には、バッハが重んじた“数による象徴表現”が複雑に盛り込まれていることが分かっていま す。またマリー=クレール・アランは、45曲のコラール前奏曲から成る《オルガン小曲集》—— いわばバッハが書き上げた“聖書”——のコラールとBWV582の構造のあいだに、関連性が あると指摘しています。事実、バッハはこの曲にさまざまなコラールを引用し、キリストの生涯 を音楽で物語っています。《ゴルトベルク変奏曲》のような後の作品と同じく、この作品もま た、誕生し・生き・死に・復活する一つの完結した世界の循環を示しているのです。

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