42 BACH TO NOTRE-DAME 何よりもバッハの作品が、そのような問題意識の追求に適しているのはなぜでしょうか? バッハの音楽の特質は、その超越性です。だからこそ、ある程度まで、どんな楽器にも適応し ます。彼の音楽は時代を超越したところに在り、あえて言うならこの世界のものでさえないの です。時空を超えて永続的に再生されうるという作品の特質は、演奏場所の音響——ノート ルダム大聖堂の残響は7秒です——と楽器に奏法を順応させているオルガニストにとって必 要不可欠です。それでも当然ながら、バッハの作品の中でひときわ多声的な書法のものは、 教会でのオルガン演奏にはあまり向いていません。意外に思われるかもしれませんが、オルガ ニストは何よりもまず、室内楽奏者です。つまり一つ一つのオルガンは、まるで物言わぬ室内 楽の共演者のように、オルガニストと不思議な対話を繰り広げます。“この楽器では、これはで きるよ、でもそれはできない……違う方法を探したらどうだい?”と……。オルガン演奏の第 一のルールは、目の前にある楽器の主張に耳を傾けることです。それは今回の録音で用いた カヴァイエ=コルの楽器を弾く場合でも、バッハの時代により近い北ドイツやザクセンやオラ ンダの楽器を弾く場合でも全く同じです。
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