45 ジョフロワ・クトー / ニコラ・バルデイルー / ジョフロワ•クトー / アントワーヌ•ドレフュス クトーの成功の足跡を、入念に敷かれたレール上のそれとして紹介することは可能だ。しか し実際のところ彼自身は、都度、目の前の扉が開くのを目にして驚かされてきた。彼が音楽を 学んだ主な教育機関を列挙し、輝かしい学歴として紹介することも可能だ。とはいえそれら は、彼の音楽表現とはほぼ関係がない——彼の音楽的な“血統”は、ある観点から見れば由 緒のあるものだが、彼の関心がそこに向けられることはない。むしろ、演奏会の場で時間を超 越する瞬間を他者と分かち合うことこそ、彼の心を高揚させる一つの理想である。それは、演 奏芸術の本質をなす無数のファクターを職人としてより深く知り・理解するよう、彼を駆り立 てる。 クトーはブラームスの音世界を通じて、演奏家としての自身の立ち位置を初めて明確にした。 この天才作曲家との親密な関係こそが、クトーの音楽家としてのアイデンティティの土台を 形づくっている。ブラームスの作品を深く掘り下げる行為は、何にもましてクトーを熱中させ る。そのとき、クトーの眼前で解釈の展望が少しずつ浮かび上がってくるが、それは何よりも、 内なる耳による聴取に基づいている。バランスを磨き、表現の力を湧出させること——それこ そが、クトーの主たる関心事である。そのようなわけで彼は、ブラームスの全ピアノ独奏曲・( ピアノ付き)室内楽曲・ピアノ協奏曲の録音に乗り出し、情熱を保ちつづけている。このレコー ディング・プロジェクトは、これまで数々の栄誉あるレコード賞に輝いており、今日、ブラーム ス作品の録音のベンチマークの一つと目されている。 今日のクトーは殊に、その演奏アプローチを通じて、作曲者・聞き手・演奏者の調和を確立し ようと努めている。美は人間の意志や計算の埒外で生じると同時に、着想や深い献身のたま ものでもあると、クトーは確信している。その探究こそが、音楽と楽器の真実を追求するよう、 日々の彼を突き動かしている。
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