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ジョフロワ・クトー / ニコラ・バルデイルー / ジョフロワ•クトー / アントワーヌ•ドレフュス 29 ヨハネス・ブラームスの音楽人生を振り返ると、クラリネット以前にホルンがあった。彼は、性 格を異にする二つの楽器に異なる愛情を注ぎ、それぞれに異なる物語を託した——片方に は伝説と自然、もう片方には心の内奥を語らせることによって。二つの楽器は、ブラームスの 二つの創作期を象徴してもいる。すなわち、力強さと生の息吹に溢れる燦然たる青春時代、 そして、諦観と内省に満ちた円熟期である。内省は両時代に共通する特徴であるが、晩年の 作品では隅々にまで浸透している。若々しい“歌”が外部へ向かって紡がれた時代に、ホルン は、どこまでも開放的かつ魅力的に響いた。対するクラリネットは、万物の黄昏(たそがれ)を 粛々と表現する。人生の輝きを反映する二つのヴィジョンとしての二つの楽器は、真昼の黄 金色の太陽と、沈みゆく赤褐色の太陽にたとえられる。ホルン特有の気高い音色とは対照的 に、クラリネットの響きは諦念と瞑想に彩られている。それは、最晩年のブラームスによる感 情の発露に、いかにもふさわしい媒体だ。じっさい彼は(おそらくは無意識に)、自身のもっと も優れた晩年のピアノ曲《間奏曲 作品118-6》において、クラリネットの音世界を鍵盤音楽 に移し替えている。たとえば作品118-6の冒頭主題は、クラリネット風の節回しと音色を聞か せる。この楽器を通りゆく息は歳月とともに薄くなり、それにともなって、発せられる数少ない 言葉はいっそう貴重で奥深いものとなっていく。晩年のブラームスの筆から生まれた驚くほ ど清澄なクラリネット作品は、いずれも、ニーチェが言うところの「もっとも深い幸福の悲しみ」 (『悦ばしき知識』)をそのまま体現している。

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