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34 ブラームス / 3つのヴァイオリン·ソナタ 1886年にスケッチが進められた《ヴァイオリン·ソナタ第3番ニ短調作品108》は、1888年 の夏に第1番と同じくトゥーン湖畔で完成された。だが、ドイツの伝説をしのばせるその曲 調は、熱情的な第1楽章〈アレグロ·アラ·ブレーヴェ〉からすでにほの暗い。このソナタにおい て、ブラームスは交響楽的な書法を駆使している。そして彼特有の苦悩の色濃い表現は、 晩年の一連のピアノ小品を彷彿させる。曲は、卓越したピアニストとして名を上げたハンス· フォン·ビューローに献呈されている。それはひょっとすると、2つの楽器が前2作よりもヴィ ルトゥオジックに扱われ、随所で丁々発止とやり合うさまを暗示しているのかもしれない。 どこまでも叙情的な第2主題は、熱烈な第1主題とは正反対だ。重力を感じさせない神秘 的なパッセージは、主題の断片と新たな楽想を絡み合わせる。その後の密度濃く力強い展 開部は、狂詩曲のみならず協奏曲の様式さえも彷彿させる。時空を浮遊するような美しい コーダが、この楽章を平穏に締めくくり、妙なる第2楽章を準備する。 第2楽章〈アダージョ〉は、全3曲のソナタの山場を形づくる。祈りにも、子守唄にも似たこの 楽章では、ヴァイオリンが澄み切った悲痛な旋律を紡ぎはじめると、次々に感情が湧出して いく。それはリートあるいは熱烈な賛歌を想わせ、沈痛に、しかし気高く響きわたる。高ぶる 感情は、かえって抑制されているように感じさせる。ピアノが声を発し優しく返答すると、や がて歌が、こみ上げる感情を抑えながら回帰する。第2楽章の終わりは、黄昏時に沈みゆく 黄土色の太陽のごとく消えていく。
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