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30 ブラームス / 3つのヴァイオリン·ソナタ 《ヴァイオリン·ソナタ第1番ト長調作品78》を[公開初演に先がけて]最初に演奏したの はヨアヒムだった。2人の睦まじい交流と類まれな友情を言祝ぐこの作品は、1879年の初 夏に完成された。ブラームスは、平穏で静謐なこのソナタにおいて、ヴァイオリニストとピア ニストが温情ゆたかに手を取り合う新たな手法を開拓している。2つの楽器は――ベート ーヴェンのソナタのように――対立関係には置かれず、深い信頼と友情にもとづいて世界 を織りなしていく。第1·第3楽章の素材は、ブラームスが1873年にクララに捧げた《雨の歌 Regenlied作品59-3》の主題だ。クラウス·グロートによる歌詞は、夏の雨をノスタルジック に回想する内容である。 第1楽章〈ヴィヴァーチェ·マ·ノン·トロッポ〉は、全3作のソナタの中で、もっとも長大である。 ヴァイオリンが提示する主題は、まるで夢想から抜け出してきたようだ。聞く者をうっとりさ せる揺れは、バルカローレ(舟歌)を想わせる――こうして私たちは、壮大に、穏やかに、牧 歌的な散策へと繰り出すことになる。愛情と躍動感にあふれる第2主題は、この楽章の静 けさを妨げはしない。曲は依然として、2つの調和する楽器のあいだを滑らかに流れ行く。 中間部の活気は、歌曲が回帰するやいなや落ち着く。このとき《雨の歌》の旋律は、かつて ないほどのぬくもりを湛えながら、聖歌のように響く。

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