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28 ブラームス / 3つのヴァイオリン·ソナタ ここで挙げられているブラームスの“美点”の数々は、まだ20歳だった彼の手に成る《スケ ルツォ ハ短調》(1853)の中に早くも見いだされる。《F.A.E.ソナタ》の一部であるこのスケ ルツォは、《バラード作品10》や3作のピアノ·ソナタの音楽世界と地続きにあるように思わ れる。《F.A.E.ソナタ》は、シューマンの提案により、彼とブラームスとアルベルト·ディートリ ヒによって共同で書き上げられた。3人がヨアヒムとの友情を称えるべく力を合わせた、一 種のオマージュ作品であり、彼らの絆は、ヨアヒムのモットー“Frei aber einsam(自由だ が孤独に)”の頭文字“F.A.E.”を冠した曲名によって示されている。さらにシューマンの発案 で、この頭文字にちなむ3つのドイツ音名F·A·E(ファ·ラ·ミ)が、曲中で用いられてもいる。第 1楽章をディートリヒが、第2·第4楽章をシューマンが担当し、第3楽章〈スケルツォ〉を作曲 したのがブラームスであった。当時のシューマンは、ブラームスと出会ったばかりで、彼の才 能を絶賛する有名な文章を書いている。《スケルツォ ハ短調》のきわめてリズミカルな第1 主題は、気まぐれで不安げであり、粗野な呼び声のようだ。曲は、この主題から、より穏やか なフレーズへと移り変わっていく。中間部は、その旋律線と幸福感に満ちた深い叙情性ゆ えに、終始シューマン的に聞こえる。すでに2人の天才のあいだに芽生えていた友情が、無 意識的にあらわれたのかもしれない……。

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