LDV64.5

ジョフロワ・クトー / アモリ·コエトー / ラファエル·ペロー / ニコラ·バルデイルー 35 改訂稿から判断するに、この《三重奏曲第1番op.8》は傑作の一つに数えられる。幕開けで チェロに託される気高く官能的な歌は、息の長い旋律と独特な揺れに支えられながら、ブ ラームスらしい感情の吐露を聞かせる。歌は、叙事詩的で交響楽的な音世界へと徐々に 移行し、力強さと壮麗さを帯びていく。バラードの精神に則った第2楽章は、荒々しく気ま ぐれなスケルツォであり、その主題の性格は際立って民俗的だ。やがて愛らしく軽やかな 中間部(トリオ)が、ブラームスの得意技とも言える甘いハーモニーを響かせる。第3楽章〈 アダージョ〉は、美しい夜の賛歌に喩えられる。ノヴァリスの詩集(『夜の賛歌』)を彷彿させ る、大理石のように冷ややかで静的な音楽だ……。 ピアノの広音域にわたる和音に応じるヴァイオリンとチェロは、ある種の空間的な広がりを (すでにアイヴスの音楽に接近している!)音で築いていく。それはまるで、自然が口ずさ む歌をポルチコ(柱廊式玄関)が囲んでいるかのようだ。間奏では、チェロの抒情的な独奏 が、壮麗な哀歌を紡いでいく。ちなみにブラームスは、後に同じ手法を《ピアノ協奏曲第2 番》の〈アンダンテ〉でも用いることになる。この神秘的で深遠な楽章は、ベートーヴェンの 最晩年の作品群(とりわけ《ピアノ・ソナタop.106「ハンマークラヴィーア」》の第3楽章〈アダ ージョ〉)を想い起こさせる。怒涛のごとき第4楽章〈アレグロ〉は、再びチェロの先導で幕開 けする。熱烈なコラール(ドイツ音楽のシンボルと言っても過言ではないコラールは、シュ ーマンやメンデルスゾーンの作品にも現れる)が、この楽章をディオニュソス的な結末へと 突き動かす——その勢いは、5年後の《ピアノ協奏曲第1番》の気勢に勝るとも劣らない凄ま じさだ。

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