LDV61
ジョフロワ・クトー | エルメス四重奏団 31 作品76が完成した1878年には、大規模な《ヴァイオリン協奏曲》の作曲が進められていた。 クトーは、作品76にはブラームスのピアノ音楽に特有のコントラストが見出されると述べてい る。 「終曲の〈奇想曲 ハ長調〉を筆頭に、幾つかの曲では超絶技巧が重視され、即興的なスタ イルが活用されています。いっぽう、ハンガリー風の第2曲〈奇想曲 ロ短調〉と第3曲〈間奏 曲 変イ長調〉には、リストを連想させる民俗的な要素が散りばめられており、その素朴な曲 調から抒情性があらわになります。しかしながら、この《8つのピアノ小品》の中には、ブラー ムスの心の兄とも言えるシューベルトの音楽との類似性もみとめられます。むき出しになっ た苦しみやメランコリーの表現が、この2人の作曲家に共通しているように思えるのです! 私自身は第5曲〈奇想曲 嬰ハ短調〉を弾いていると、ブラームス自身の《パガニーニの主題 による変奏曲》第2部の第7変奏を想い起こします。まるでリズムのエチュードのような(片方 の手が2拍子、もう片方の手が3拍子を打ちます)第7変奏の複雑さが、〈奇想曲 嬰ハ短調〉 と全く同じように、音楽のいわば幻想的な性格を強調しているからです。これに関して、ブ ラームスの音楽がどれほど未来を予示しているのか、2つの具体例を挙げてお話したいと 思います。なぜならおそらくリゲティは、ブラームスのこの種のリズム的アプローチこそ、掘り 下げるべき課題であると考えていたからです。じっさいハンガリー出身のリゲティは、1世紀 後に作曲した《ピアノ練習曲集》の幾つかの練習曲において、複数の異質なリズムや独立 したハーモニーを並置しているのです。さらに、マーラーの書法も注目すべきでしょう。同 じくウィーンを拠点にした先輩作曲家ブラームスにならって、マーラーは管弦楽曲の中で、 複数の独立した旋律線やリズム型を並置しています。マーラーは、“ポリフォニー(多声音 楽)”と“ポリリズム”のコンセプトを字義通り発展させたのです。この種のアプローチが際立 つブラームスの作品、とりわけ作品76を聴くと、彼がロマン主義時代の終焉を体現している ことを実感させられます。音楽史は、次なるページに足を踏み入れようとしていたのです。」
RkJQdWJsaXNoZXIy NjI2ODEz