26 渡り鳥 10年後、私たちの100回目のリサイタルが間近に迫っていたとき、 ナタリーは私〔カサール〕に打ち明けてくれた——ドビュッシーの音 楽に新鮮でエキサイティングな眼差しを注げる歌手はナタリーだ けだと信じて疑わない私の執念と根気が、彼女の当初の拒絶を覆( くつがえ)したのだと。てっきり私は、彼女が歌曲を歌うことに不安 を抱いていて、オペラの活動に忙殺されているのだと思っていた。だ が、ナタリーは求められることを望んでいた。このドビュッシー·プロ ジェクトのために、世界中の誰よりも彼女を求めた私に、彼女は自 らの美の世界への扉を開いてくれたのだ。* *上記の文章は、フィリップ·カサール著『Par petites touches(』Paris: Mercure de France, 2022)からの抜粋である。出 版社のご厚意により、ここに再録する。
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