42 VIRTUS かつてアルフレッド・コルトーは、「テクニックを標榜する芸術は、すでに破滅を運命づけられ ている」と述べた。ミシェル・ダルベルトは、次のように補足する。「私がコルトーの演奏に魅了 されているのは、何よりも彼が、音色、響き、フレージングの面で、決して誤りをおかさないか らです。彼は天才的な語り手です。リストも、弟子たちに“何かを語ってくれ!”と伝えていたそ うですね。劇的な背景がなく、紡がれる物語もない、(拠り所なき)ヴィルトゥオジティは、私の 目には無意味に映ります。だからこそ私は、リストのレパートリーのなかで、純粋に指の動きが 追求されている作品には関心が抱けません。しかも私からすれば、作曲家たちが用いている テクニックや、彼ら独自のピアノの扱い方は、驚くほど多様で魅力的です。たとえばブラームス の場合、鍵盤のコントロールの仕方が独特で、ショパンやリストのそれとは全く異なります。 両手と指の動きがユニークで、あえて言えば、ピアニスティックではない時があるのです。ブラ ームスの手は特異な形態だったのでしょうか? おそらく彼は、私が実演を最も見聞きして みたい作曲家の一人です」
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