39 ミシェル・ダルベルト ドイツ語圏の国々の音楽史は、古典派からロマン派へと切れ目なく移行した。しかしフランス 革命は、フランス音楽史の美学的な流れに断絶をもたらした。新たな政体で権力を握ったの は、王侯貴族たちの娯楽に飛びついたブルジョワ(産業資本家)たちであったが、そのさい、 知的・美的なコード(倫理規定)は引き継がれなかったのである。その後の数十年間に、ヴィ ルトゥオーゾは、学識のある人物としての地位を失い、腕利きの演奏者とみなされるようにな る。 19世紀の批評家たち——とりわけ、スタンダール、ボードレール、ベルリオーズ(音楽評論家 でもあった)、フロベール——は、“アスレチック”な演奏に感服し、うわべの価値に無上の楽し みを見出した。創造性が“スポーツ性”にとって代わられ、知的な探求よりも物理的な力強さ やスタミナや敏捷さが重きをなすようになったというわけだ。 誇張を恐れずに言えば、徳の薄れたヴィルトゥオーゾは、もはや善と悪を見分けることは無く なった……
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