31 クレマン・ルフェーヴル 《10のマズルカop.3》の流れを汲む《2つのマズルカ風即興曲op.7》が、ショパンの影響 下にあることは明らかです。本盤に収録されている8つの即興曲は、1891年から1895年 にかけて作曲されています。8曲の特徴は何でしょうか? この短期間にスクリャービンの 書法は変化を遂げたのでしょうか? 当時のスクリャービンは、マズルカから影響を受けるだけでなく、この“すぐれてショパン 的”なジャンルを我がものとしました。Op.7のみならず、たとえばop.14-1の即興曲も、マ ズルカ風です。スクリャービンの即興曲がもつ簡明な表現や、ストレートで屈託のない魅 力は、私の心を揺さぶります。Op.10-1は、悲痛で、メランコリックで、極めて洗練されて います。Op.12-1は、めまぐるしい動きで私たちを陶酔させます。悲壮感を前面に押し出 すop.12-2の独特で強烈な表現は、スクリャービンの初期作品の最たる特徴と言えま す。Op.14-2がはらむ抑制された苦悩は、実に感動的です。確かに、これらの即興曲の上空 ではショパンの影が舞っています。しかしスクリャービンの書法の変遷に着目すると、1曲ご とに響きの構想が独創性を増していくなか、和声の動きもより際立ち、いっそう荒々しいも のになっていきます。そして種々の音域の巧みな配合から、先例のない半濃淡の響きが生じ ています。スクリャービンがop.12-1で用いたポリリズムは、音楽に内なる運動を付与すると ともに、のちに彼が発展させることになる様式に特徴的な、恍惚とした躍動を生み出しても います。
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