51 ベアトリス·べリュ 第2曲〈躁鬱病の人魚〉は、ラヴェルの〈オンディーヌ〉(《夜のガスパール》)への“目配せ”で す。とはいえ私が思い描いたのは、ライン川にそびえる岩の上に座る妖精ローレライの姿で すが……。ワーグナーとリストから想を得た和声は、時折、不協和な響きの中でぐらつきま す。それは、夢想と激昂のあいだを行き来する女性の強烈な感情を想起させます。 第3曲〈彼女は彼の口づけを待たずに目を覚ました〉が描いているのは、心の変遷であり、 はじめに聞こえてくるのは、その悲嘆の声です。続いて、同じ主題が別のハーモニーで現れ、 不思議な雰囲気を漂わせます。それは幾つもの内なる問いを表現しています。そしてこの 主題が、勝利の歌へと発展していくのです。ここで暗示されているのは、私が大きな影響を 受けたスイスの精神科医カール・グスタフ・ユングが説いた“個性化過程(” individuation process)です。
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