LDV132-3

72 ブラームス | ピアノ三重奏曲(全曲) この点に関して、ヴァイオリン奏者側の見解もお聞かせ下さい。 ファニー:確かに、最初に3人で一緒に弾いてみたとき、全員のサウンドを混ぜ合わせるの に苦労しました。というのも、チェロが高音域の弦を用い、同時にヴァイオリンが低音域の 弦で歌う箇所が多いのです。つまり、チェロが上声を、ヴァイオリンが下声を担う不自然な“ 音域の逆転”が起こります! これは、ホルン版では生じえない現象です。ヴァイオリンとホ ルンは何ら共通点をもたない楽器ですから、ヴァイオリン奏者は、ただヴァイオリン奏者ら しく振る舞えば事足ります。ところがチェロ版では、二つの弦楽器が程良く調和するよう、 ヴァイオリンのサウンドを順応させる必要があります。 変ホ長調を主調とするこの曲には、他の三つのトリオには無い特異な色彩があります…… ポリーヌ:実にノスタルジックな音楽です。ピアノ・パートの音の数は、他の3曲のトリオと比 べるとかなり少なく、ピアノにはよりいっそう伴奏としての役割が求められます。ブラームス は、あの虚飾を排したシンプルな旋律が頭に浮かんださい、森の中を散策中だったそうで す。そのときの彼の心もちが旋律に映し出されているのでしょう。彼がこの旋律を託したホ ルンは、自然のロマン主義的な喚起と密に結びつけられている楽器です。 アンジェル:ブラームスはこのトリオを、実母を亡くしてから程なくして作曲しました。森の 散策は、母の思い出を呼び起こしたのでしょう。曲の冒頭を飾るのはアレグロ楽章ではな く、愁いを湛えるアンダンテ楽章です。ピアノが極めてヴィルトゥオジックに扱われる第2楽 章〈スケルツォ〉は、その喜ばしい曲調によって第1楽章とコントラストを成しています。

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