66 ブラームス | ピアノ三重奏曲(全曲) 若書きの血気盛んな大曲・第1番と、50歳目前のブラームスの手による第2番(作品87) の間には、27年の開きがあります。彼の書法には、どのような変化がみられますか? ポリーヌ:従来のピアノ三重奏曲は、三つの楽器を対話させる古典的な構造を特徴とします が、それは第2番にはほとんど当てはまりません。この曲は、奏者に別のアプローチを要求し ます。第1番にも第3番にも頻出する、歌うような息の長い旋律は全く現れません。書法の中 に、声楽的な要素は全く見当たりませんし、概して、非常に広い音程が用いられています。ど の楽器にも、一人で“歌う”機会は与えられません。第2番は、どちらかといえば感情よりも理 性から生じているのでしょう。曲の内部が断片的である一方、形式全体は、より圧縮されて います。第2番には、第1番の激情は見出されませんし、弦楽器のユニゾンだけに託される出 だしは、極めて異例で、意表を突くものです。 ファニー:第2番では、ブラームスと作品の間にある感情的な隔たりが、より広いような印 象を受けます。第1番と比べると、書法はより精巧になり、構造はより簡潔になっています。 私のパートに関するかぎり、第2番はあまり“ヴァイオリン的”ではありません! また、パート 間の相互依存関係が非常に緊密なので、一人で曲を準備するのは容易ではありませんでし た。曲の構造は、まるでレゴのように、入り組んだ諸要素をもとに築かれています。そのため、 全体の響きのイメージを決して見失わないようにする必要があります。 アンジェル:第2番は、弦楽器パートが史上最も複雑に絡み合うピアノ・トリオでしょう。調 性にも驚かされます。ブラームスは、ハ長調という最も簡明な調性から、最も複雑な書法を もつピアノ・トリオを生み出したのです!
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