64 ブラームス | ピアノ三重奏曲(全曲) 若書きの第1番(作品8)は1853年の作品です。ブラームスは、デュッセルドルフのロベル ト&クララ・シューマン夫妻の家で大部分を作曲しました。先例のない規模をもつ第1番 に散見する音楽的な引用の大半は、クララに向けられています。ブラームスは35年後に、 曲に大幅な改訂を加えていますが、今回はどちらの稿をお弾きになったのですか? アンジェル:改訂稿です。第1番は第2・3番の完成後に書き直されたので、いわば最初のピ アノ・トリオであり最後のピアノ・トリオでもあります。第2楽章〈スケルツォ〉はほぼ初稿のま まですが、終楽章〈アレグロ〉では、ベートーヴェンの連作歌曲集『遙かなる恋人に』の第6曲 (原注:〈僕が君に歌ったこの歌を受け入れて、愛しい人よ〉)からの引用が削除され、代わ りに〈スケルツォ〉楽章のコラール主題が置かれています。改訂稿の演奏時間は、初稿と比べ れば短いですが、それでも異例な長さですから、初稿の長大さに驚かされますね! ファニー:ブラームスは滅多に自作に満足しませんでした。円熟に達した思考と、それまでに 得た人生経験が、彼に改訂を思い立たせたのでしょう。とはいえ改訂稿は、若きブラームス の才気、情熱、活力をとどめてもいます。
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