50 バッハ | フランス組曲全集(BWV812-817) しかも、全ての構成曲がフランスの舞曲というわけではありません! 本当に「フランス組曲」と題されたかどうか、真偽のほどはわからないと考えられています。メ ヌエットのように幾度も登場するフランスの舞曲が数種あるいっぽう、バッハは、スペインの サラバンドやアイルランドのジーグを採用し、さらにはイタリアやポーランドの伝統音楽を参 照することで、ヨーロッパを周る音楽旅行へと私たちを連れ出してくれます。彼自身がドイツ を離れることはありませんでしたが、彼にはいわば旅人の魂が宿っていました。彼は教養人 であり、大いに古典に精通していました。膨大な数の楽譜に目を通し、写譜し、外国から音 楽家がやって来れば演奏を聞きに行きました。そして芸術的なものから大衆的なものまで、 多様な様式を取り込み、自らの作曲言語を豊かにしました。バッハはフランス組曲において、 あらゆる種類のダンスのステップを心の中で踏み、鍵盤上の身振りの指針とするよう、奏者 を促しています。私たちは、足を上げたり、軽やかに、あるいは重々しく足を下ろしたり、農民 の靴から貴族の靴へ履きかえたりする自分自身の姿を思い浮かべます。そこでは、あらゆる 社会的身分が示唆されているのです。そして、このような身体の動作、重力と跳躍をめぐる意 識は、バッハの音楽の本質的かつ補完的な二つの側面、すなわち地上的側面と天上的側面 を際立たせる助けとなります。
RkJQdWJsaXNoZXIy OTAwOTQx