49 セドリック・ペシャ フランス組曲は、荘厳な前奏曲で始まる代わりに、概して穏やかなアルマンドで開始しま す。それが、この曲集の人間味をいっそう際立たせているのでしょう。私たちはすぐさま、優 しさに満ちた世界へと足を踏み入れます…… まさにその通りです。バッハは、当時そのほとんどが既に“流行遅れ”だった様々な舞曲を、き わめて優美に仕上げています。フランス組曲において私たちは、皆の記憶の中に、しかし過 去に属する記憶の中に、なおも存在する何らかの思い出や郷愁に触れるのです。それらの舞 曲は、過度にきらびやかになることは滅多になく、ある種の慎みを湛えています。そして各組 曲の中央に位置する第3曲目には、決まってサラバンドが置かれています。サラバンドととも に感情は最高潮に達し、私たちの胸は高鳴り、時に痛みます。しかしそれらすべては、演奏中 に、あっという間に過ぎ去っていきます。私たちは、主情的な世界に入り込んだかと思えば、 その数分後には、全く異なる雰囲気の中に戻っていくのです。ある舞曲から別の舞曲への移 り変わりこそ、演奏者に突きつけられる難題です。なぜなら、それぞれの舞曲の性格、さらに は様式が、大きく異なるからです。対照的なムードをもつ短い曲が並んだシューマンの連作 を想い起こさせますね。
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