34 夜想曲 フォーレが第2番を完成させたのは72歳のときです。このころ彼は、世界大戦、自身の健 康状態の悪化、愛する人びとの死、難聴の進行などに対峙し、辛い時期を過ごしていまし た。第2番には、その影響が見受けられますか? クレマン·ルフェーヴル:確かに第2番には悲劇的な側面があり、時おり、ある種の暴力性が 現出することもあります。曲の冒頭の暗い雰囲気は、闘争を想起させるぎこちないリズムによ って掻き乱されます。しかしながら、この絶えず上昇を続ける楽章は、官能的で高揚感に満 ちたリリシズムを導き、冒頭との対比を生み出します。 エヴァ·ザヴァロ:シャルル·ケクランの言葉を借りれば、それは「歓喜の頂(いただき)へと向 かう素晴らしき上昇」です! フォーレは私たちを、転調と和声進行と入り組んだカノンが 続くトンネルの中を通過させます。そして私たちは突如、山頂に至ります。音楽は最高潮に達 し、私たちは飛翔するのです! この興奮に満ちた上昇が終わりに至る瞬間に、私たちは、 ご褒美のように解放感を得ます。今回の録音では、この高揚や躍動を十分に曲から引き出 そうと努めました。ソナタ第2番における闇から光への移行は、演奏者にとって、とりわけ扱 いが難しい変容の一つです。特に終楽章のエンディングでは、その変容が勢いを増し、めく るめく高揚を引き起こします。 クレマン·ルフェーヴル:先ほどエヴァが述べたカノンの手法は、フォーレの常套手段です。カ ノンにおいて私たちは、音色の自由を個々に手にし、それぞれの表現の強度を保ちながら、 デュオとして演奏している実感も得られます。ソナタ第2番のカノンは、熱にうなされる夜に 見る強烈な夢を彷彿させます。何かを掴もうとして、ようやく手が届いた瞬間、それが遠の き、逃げて行ってしまう夢……。ソナタの冒頭主題は、最後に幸福な思い出のように回帰し ますが、あの容赦ないカノンが生み出した緊張の欠片(かけら)は、最後まではびこります。
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