55 ヴァネッサ・ワーグナー 最後の曲は、静かでノスタルジックな珠玉の小品です。ご自身の“物語”を、グリンカが手が けた知られざる《夜想曲》で締めくくろうとしたのはなぜですか? この曲が頭に浮かんだのは、後になってから……ちょうど“物語”に終止符を打とうとしてい たときでした。「別れ」という曲名は、先ほど述べた、本盤のプログラムの霊感の源の一つと なった映画を彷彿させます。この映画では、成就することのない幻の愛と孤独が描かれます が、それはチャイコフスキーの私生活を想起させると同時に、ロマン主義者たちが好んだテ ーマでもあります。だからこそグリンカの《夜想曲》は、私自身が思い描いた“物語”の結末に ふさわしく思えました。この曲が、優しさと悲しみと期待が入り混じる——移ろいゆく季節の ような——旅路を、静かに・官能的に閉じるのです。
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