49 ヴァネッサ・ワーグナー その親密性が、グリーグの音楽の中にも見出されるわけですね…… 今回のプログラムの構想を練り始めたのは3年前です。当時の私は、新型コロナ・ウィルス感 染拡大中のロックダウンゆえに、孤独な日々を過ごしていました。まず、グリーグの素晴らし い《抒情小曲集》から数曲を選んでプログラムの軸とし、それらを他の作曲家たちの小品と“ 対話”させようと考えました。当初は、何度も弾いたことのあるメンデルスゾーン、シューベル ト、シューマンの作品を検討したのですが、その後、チャイコフスキーの曲集[cycle]『四季』 が打ってつけだとひらめきました。『四季』に関心を寄せるきっかけとなったのは、ニコール・ ガルシア監督の映画『愛を綴る女Mal de pierres』[2016]でした。なかでも、ルイ・ガレル [が演じる将校アンドレ]が有名な〈6月 舟歌〉を弾くシーンは胸を打ちます。もちろん、映画 を観る前からこの曲を知っていましたが、私のレパートリーには入っていませんでした。〈6月 舟歌〉に心を揺り動かされた私は、映画を観た翌日に楽譜を注文しました。この曲には、私 の“物語る本能”を自由に羽ばたかせる、打ち明け話にも似た口調が見出されます。
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