60 ガブリエル・フォーレ | 夜想曲全集 初期の夜想曲の叙情性、物憂げな官能性、洗練された詩情。晩年の夜想曲の簡素さ、峻厳 さ、深遠さ。演奏者として、どちらがお好みですか? 両方です。とりわけ私は、フォーレの夜想曲集をツィクルスとして続けて弾くのが好きです。そ れらは、一つの旅を、内的な生の歩みを物語っています。それでいて、一つ一つの夜想曲がユ ニークなのです。私は、初期の魅力とは無縁の晩年の夜想曲に特に愛着を抱いていますが、 それでも第3番と第4番は、私にとってプルーストのマドレーヌ[のように幸福な遠い記憶を 呼び起こす音楽]です。第4番は慰めに満ちています。明暗の対比が光るこの曲は、幸せな感 情を放っています。フォーレ自身が気に入っていた第5番は、類まれな名曲です。しばしば、こ の曲の甘美さや魅力が言及されますが、そこには第13番を予示する悲痛な過酷さもありま す。この曲の無邪気な不思議さと、とらえ所のない詩情は、フォーレに特有の多義性を特徴 づけるものです。第5番が放つ悩ましい官能性は、第6番と第8番にも通じますし、極めて熱 情的な中間部は、全夜想曲の中でも群を抜いてヴィルトゥオジックなパッセージです。一方、 第6番は、熟達した独創的な書法と均整を特長とする素晴らしい曲です。
RkJQdWJsaXNoZXIy OTAwOTQx