55 テオ・フシュヌレ 主人公…? フォーレの音楽は、演奏者を、いわば加入儀礼的な探求にいざないます。フォーレが向か う先を見抜くまでの道のりは、随分と長いかもしれません。彼の書法は、マルセル・プルース トのそれを想い起こさせます。私たちは、その紆余曲折の中で結局、方向を見失い、1人称 で考え始めます。この音楽が、あたかも私たち自身の精神や思考の動きから生じたかのよう に……。 前奏曲、即興曲、舟歌、夜想曲……フォーレはショパンを範としているのでしょうか? 確かに、フォーレのピアノ曲のタイトルは、ショパンに倣(なら)っているようにみえます。しか し実際は違います。フォーレは曲名をほとんど重視していませんでしたし、彼の息子フィリッ プ・フォーレ=フルミエの証言によれば、フォーレはむしろ、ただ作品番号を振りたいと望ん でいたようです。そのような中立的な態度は、ショパンよりも、シューマンと彼の曲名「ピアノ 曲Klavierstücke」を彷彿させます。フォーレの場合、「夜想曲」のようにジャンル名を曲名に する判断の多くは、出版者たちの意向によるものでした。彼らは、詩的でロマンティックな雰 囲気のタイトルによって、楽譜購入者たちの食指が動くのを期待したのです。フォーレの『8 つの小品 作品84』の終曲も、彼の最初の出版社ジュリアン・アメルの主導で《夜想曲第8 番》と“改名”されました。
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