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ピアノのための夜想曲(ノクターン)の名を高からしめた2人 の作曲家といえば、フレデリック・ショパンと、半世紀後に彼 を継いだガブリエル・フォーレである。ジョン・フィールドが 創始したこの形式は、ロマン主義者たちが重んじた“夜の雰 囲気”を呼び起こす。だがその性格は、《月の光》と《ディアー ヌよ、セレネよ》の作曲者——フォーレ——の手を介して薄 れ、夜想曲は、イメージの喚起とは無縁の詩的な想像世界 を存分に表現する音楽となった。とはいえフォーレの夜想 曲は、真昼の陽光を浴びることなく、悩ましい夢幻の光を放 つ。えも言われぬ魅力を湛える初期作品から、薄暗く、簡素 で、しばしば情熱がほとばしる晩年の作品まで、彼の夜想曲 集は、夕暮れの静けさにも似た「広大で柔和な静穏」〔脚注〕 をひたすら志向している。テオ・フシュヌレにいざなわれた 私たちは、フォーレの深遠で洗練された音世界に足を踏み 入れることになる。

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