LDV115-6
47 上野 通明 第1番ト長調は、全6曲の中でもっともよく知られている。冒頭を飾る〈前奏曲〉は、チェロの 低音域を探った後、高音域を目指して絶えず上っていく。その一徹で歌心に富んだ書法は、 《平均律クラヴィーア曲集第1巻》の最初の〈前奏曲〉を想い起こさせる。自由奔放な二つ の舞曲〈アルマンド〉と〈クーラント〉に、気品ある〈サラバンド〉が応じる。〈メヌエット〉と〈ジ ーグ〉はユーモアを交えながら、フランスのディヴェルティスマン――バロックの神髄を伝 える用語――に特有な敏捷さやエスプリを聞かせる。 第1番と比べると、第2番ニ短調は遥かに悲劇的だ。物々しく劇的な〈前奏曲〉に続いて、よ りいっそう悠々たる〈アルマンド〉が荘厳に展開される。一転、〈クーラント〉では蓄積された エネルギーが解放され、その熱情は最後の小節まで途絶えない。緩やかな〈サラバンド〉は、 〈メヌエットⅠ&Ⅱ〉に先立つ夢想である。後者にはメヌエットの進化が反映されている。と いうのもメヌエットは、もともと快速な大衆舞曲であったが、ヨーロッパの宮廷に取り入れ られてから比較的に遅いテンポを取るようになった。ヴィルトゥオジックで、熱烈で、目の回 るような終曲〈ジーグ〉は、冒頭の〈前奏曲〉に比肩する荘重さを湛えている。
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