LDV115-6
43 上野 通明 演奏者として、どのような系譜に属しているとお考えですか? 私が影響を受けてきたのは、ピーター・ウィスペルウェイ先生をはじめ、これまで師事した 先生方です。ウィスペルウェイ先生の音楽に関するお考えや、パブロ・カザルスの音楽的思 想から、今もインスパイアされています。とはいえ、演奏家はただ一つの系譜の中で育まれ るわけではありません。最も重要なのは、音楽を通して何を物語っているのかを、明確に認 識することだと思います。正直なところ、先ほども言及した“直感”は、規則に優(まさ)るも のです。その鍵となるのは、各組曲の一貫性、つまり物語としての緊張感を保ち、曲のメッ セージから逸れないことです。私たちは確かに“歴史的な知識に基づく演奏(HIP)”の原理 を知ってはいますが、“バロック様式による演奏”は幻想でしかありません。私はバッハを演 奏するさいに、モダンの弓とガット弦(ワウンド弦)を組み合わせています。各舞曲のテンポ 設定も、全く相対的なものとして捉えています。じっさいテンポは、楽器や弦の選択、はたま た演奏場所の音響の選択といった、多くの要素によって定まります。幸運なことに、私は今 回のアルバムを教会で録音しました。《無伴奏チェロ組曲》に素晴らしく適した演奏場所で すし、その雰囲気から、ふんだんな霊感を与えられました。 この曲集はところどころで、さまざまな楽器を示唆しています。たとえば、第5番はリュート の音色を、第6番は5弦のヴィオロンチェロ・ピッコロを連想させます。 私は第6番で、自分の4弦のチェロ――製作者不詳のイタリア製の楽器です――を用いま した。この楽器は力強い低音域を有し、概して音がとてもよく鳴るので、バッハの音楽を演 奏するのにうってつけです。第6番を5弦ではなく4弦で演奏するのは、あらゆるチェリスト にとって技術的に困難な挑戦です……まさにそれが、この組曲を弾く醍醐味でもありま す!
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