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41 上野 通明 音楽の旧約聖書にも喩えられる《無伴奏チェロ組曲集》の録音は、今なお大多数のチェリ ストが目標に掲げる大仕事です。26歳での全曲録音にあたり、どのような挑戦を突きつ けられましたか? 実は、私はヨーヨー・マが《無伴奏チェロ組曲》を弾く映像を観てチェロを習いたいと思 いました。4歳の時です。最初のうち、両親はただの気まぐれだと信じて疑いませんでした が……。以来私は、《無伴奏チェロ組曲》に20年間、親しんできました。家族で違う国に引 っ越すたびに、チェロの先生が変わりましたが、どの先生も私の《無伴奏チェロ組曲》の勉 強にその都度、寄り添ってくださいました。バッハの音楽によって育まれた私には、今回の アルバムで《無伴奏チェロ組曲》以外のレパートリーを取り上げることは考えられませんで した。 今回の演奏が、この曲集に対する現在の私の理解を示すものでしかないこ とは自覚しています。もしかすると私は数年後に、この演奏に不満を抱くかも しれません……。とはいえ、これから先も一生“これでバッハの演奏は完結し た”と 断言することなどできないと自分は思っています。

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