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56 ベートーヴェン | チェロとピアノのためのソナタ&変奏曲全集 最後の二つのチェロ・ソナタの構造は、かなり小ぶりです。1815年の夏に作曲された 第4番では、二つの楽器が対等な関係を結んでいます。ベートーヴェンは自筆譜の冒頭 に“Freie Sonate(自由なソナタ)”と書いていますが、この“自由”は何を意味するのでし ょうか? ゲイリー・ホフマン : “自由なソナタ”……かねてから私は、もっぱら形式が自由なのだと解釈 してきました。一つ指摘しておきたいのですが、作曲家というものは、ひとたび円熟の極みに 達すると、過去の形式を“再訪”します。2楽章形式のソナタという構成はバロック的であり、 それはまるで——おそらくは無意識な——過去の大家たちへのオマージュのようです。私 は“自由なソナタ”という曲名の中に、哲学的な思想の存在を見出してもいます。なぜなら第 4番の音楽を成す種々の主題の断片は、決して実を結ばないからです。それらはまるで、時間 と人生の成り行きに囚われた、果たされない約束のようです……。ベートーヴェンは第4番 において、そもそも人生は実を結ばぬものであり、全てを理解することも不可能であると悟 っているのかもしれません。 ダヴィッド・セリグ : おそらく第4番は、音楽言語の観点から見て、全5曲中もっとも“モダン” です。第2楽章の導入部は、ベートーヴェンの晩年のピアノ・ソナタと弦楽四重奏曲を想起さ せます。私たち二人は第4番を演奏するたびに、謎めいた道に足を踏み入れることになりま す。対位法的な形式をとる終楽章には、言うなれば“哲学的”なユーモアもあります。

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