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55 ゲイリー・ホフマン | ダヴィッド・セリグ 憧憬の念と相まって、反感も、この頃のベートーヴェンを突き動かしていたのではないでし ょうか? 1808年と言えば、ナポレオン軍がウィーンに再び侵攻しようとしていたときで す。それは先ほどの、控えめに言っても突飛なベートーヴェンの書き込みとも辻褄が合う ような気がします。モーツァルトの様式を彷彿させる第3楽章は、ある種の過去への回帰 であると思われますか? ゲイリー・ホフマン : 第3番は大きな矛盾をはらんでいます。このソナタは確かに、ベートー ヴェンの中期の特徴である力強い感情に満ちています。しかし私は、第3番が全5曲の中で もっともバランスが良いソナタであるとも考えています——もっとも幅広い感情表現が見出 されるという意味において。だからこそ、ベートーヴェンのラテン語の書き込みには、つねに 驚かされます。作曲時の彼の感情は明らかに混乱していましたが、私には、逆境を乗り越え ようとする彼の意志も感じられるのです。 ダヴィッド・セリグ : 私が思うに、第3番の豊かな旋律と叙情性は、ある種の充足を表して います。これを意外に受けとめる人もいるでしょう。なぜなら歌心は、ベートーヴェンの創 作の主たる特徴ではありませんから! とはいえ、同時期に生まれた《ヴァイオリン協奏曲》 (1806)や《交響曲第6番「田園」》(1805-1808)も極めて叙情的です。
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