LDV111-2
53 ゲイリー・ホフマン | ダヴィッド・セリグ ここからは各ソナタについて詳しくお話をうかがいます。へ長調の第1番は1796年の作 で、フランスのチェロ奏者ジャン=ピエール・デュポールのために書かれました。彼はパリ の有名なコンセール・スピリチュエルの一員で、プロイセン王からの招きで1773年から ベルリンで活動していました。ベートーヴェンとデュポールは、コンサートで共演したこと もあります。第1番には、フランスのチェロ演奏の伝統からの影響が垣間見えるのでしょう か? ゲイリー・ホフマン : 第1番と第2番の幾つかの要素は、デュポールの《練習曲集》からの影 響を示唆しているかもしれません。ベートーヴェン自身はチェロを弾きませんでしたし、彼以 前の作曲家たちは、チェロを独奏楽器として用いたことは——ほとんど、あるいは全く—— ありませんでしたから、彼が未知の領域に身を投じたのだと理解することは重要です! 第 1番には、確かにフランス音楽の影響がみとめられますが、一方で私は、ある種のエレガン ス、さらに言えばイタリア的な魅力を感じてもいます。さらに第1番は、モーツァルトと“alla turca(トルコ風)”への——おそらくは意図的な——オマージュでもあります。(ただしモー ツァルトは、チェロのための独奏曲を一つも残していません。)これら全ての特徴は、第2番の ソナタではほぼ姿を消しています。 ダヴィッド・セリグ : 私も同じ意見です。第2番は——このソナタも2楽章形式ですね—— 第1番よりも“モダン”です。たとえば冒頭は、よりいっそう重々しくドラマティックです。休符が 存在感を放つこの序奏は、シューマンの大胆な筆致を予示しています。
RkJQdWJsaXNoZXIy OTAwOTQx