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52 ベートーヴェン | チェロとピアノのためのソナタ&変奏曲全集 彼はピアノ独奏曲の分野でそうしたのと同様、チェロ・ソナタに2楽章形式を導入しまし た。このように、彼が音楽形式にさえ変更を加えたことは示唆に富んでいます。 ゲイリー・ホフマン : 形式と内容は不可分です。ベートーヴェンの場合、全てが“流動的”で、 絶えず改められています。彼はソナタ第1番において、チェロとピアノから共通点よりもむしろ 本質的な相違点を感じ取り、これら二つの楽器を組み合わせるという難題に挑んでいます。 いっぽう、第2番と第3番のソナタを比べると、二つの楽器の関係性とチェロの位置づけは 著しく異なります。それは彼の様式が、さまざまなジャンルの作品——3曲の《弦楽四重奏曲 「ラズモフスキー」》や《ヴァイオリン協奏曲》など——を通して円熟したことに起因します。 第3番において、ベートーヴェンは言わばチェロとピアノの繋がりを見出し、それによって別 の次元へと移っています。だからこそ、全5曲のソナタを演奏するさい、奏者はつねに新しい 問いを自身に投げかけることになります。たとえばヴィブラートやアーティキュレーションや レガートにかんして、曲ごとに考察せざるをえないのです。 ダヴィッド・セリグ : 作曲当時の楽器や楽器製作法を考慮すべきだとしばしば言われます が、それは矛盾をはらんでいます。というのもベートーヴェンの場合、彼は当時の特定の楽器 を想定して演奏指示を記しているいっぽうで、楽器の進歩——すなわち響きの進歩——を 絶えず予感してもいました。ベートーヴェンの時代のピアノを知ることは、つねに興味深い体 験です。彼がなぜそのように書いたのか、どのようなサウンドを期待していたのか、より正確 に推しはかれるようになるからです。具体例を挙げましょう。当時の楽器のペダルと、今日の コンサート用グランド・ピアノのペダルの効果は、全く異なります。現代に生きる私たちは、ベ ートーヴェンが記した指示が明確であっても、それを検討し調節しなければなりません。適 切なバランスを見出すことが必要です。

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