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49 ゲイリー・ホフマン | ダヴィッド・セリグ 1986年に出会って以来、長年ベートーヴェンのチェロ・ソナタを共に奏でてきたゲイリ ー・ホフマンとダヴィッド・セリグは、1公演で全5曲を演奏することもある。 全曲演奏は、ベートーヴェンの作曲家人生の20年余りを辿る音楽の“旅”に喩えられる。 その体験は二人の作品観やアプローチにも変化をもたらすのだろうか? ゲイリー・ホフマン : 1公演で全5曲のソナタと向き合う機会が、演奏者の作品観だけでな く聴衆の作品観をも変化させることは間違いありません! そもそも、自宅で休みなく2時 間、5曲のチェロ・ソナタを聞いたことがある人は、そう多くはないでしょう? コンサートで の全曲演奏では、極限の集中力が求められます。なぜなら5曲は、ベートーヴェンの作曲家 人生の三つの重要な創作期とかかわっているからです。1796年から1816年までのあいだ に、彼は書法だけでなく、チェロとピアノの演奏テクニックや二つの楽器の関係性もことごと く変化させました。私は自分の生徒たちに、日頃こう話しています——ベートーヴェンは、チ ェロ・ソナタ第1番を作曲していたとき、いつかチェロのためにフーガを書くことになるとは 想像もしていなかっただろうと。結果として、最後の第5番はフーガで閉じられています。コン サートで全曲演奏に接する聴衆は、この驚くべき変遷を目の当たりにするのです。そして奏 者である私たちは……この大変動をダイレクトに体験しています! ダヴィッド・セリグ : 私もゲイリーと全く同じ考えです。大半のピアニストがそうであるよう に、私はベートーヴェンの音楽によって“育まれ”ました。当時オーストラリアに住んでいた私 が初めて聞いた録音は、どれもベートーヴェンの作品のものでした。コンサートでチェロ・ソ ナタを全曲演奏するとき、私の作品観は無意識に変わります。構成やバランスの捉え方、各 曲の関係性、表現方法などの全ての要素が変化し、五つの傑作に対する私たちの認識を豊 かにしてくれます。
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