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45 フランソワ=フレデリック·ギィ ドビュッシーの性格のどのような点が、彼の音楽を読み解く“手がかり”として、あなたの 心を動かしますか? ドビュッシーは複雑な性格の持ち主でした。彼は《前奏曲集》においては、時に熱烈な愛国 者となり、時にユーモラスに振るまっています。〈ピクウィック殿を讃えて〉の冒頭では、イギ リス国歌《神よ女王を守りたまえ》が引用されています。ここで彼は――〈ラヴィーヌ将軍 – 奇人〉でもそうですが――つねにエレガンスを保ちつつ、揶揄しています。ドビュッシーの知 的なユーモアは、いつもさりげなく皮肉を含んでいるのです。とはいえ、ドビュッシーの天賦 の才能は多岐にわたります。いずれの前奏曲も先例のない詩情を湛えていますし、その多 彩な音色と独創的な旋律・リズム・和声は、ただただ素晴らしく、彼の傑出した才能をはっ きりと示しています。したがって私たち演奏者は、《前奏曲集》がもつ極めて多様な性格を聞 き手に伝えなければなりません。それらは、作曲当時を示唆しているだけでなく、未来を鮮 やかに予示してもいます。 ドビュッシーは、“フランス音楽の偉大なる作曲家”であるだけでなく、史上もっ とも偉大な作曲家の一人でもあるのです。

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