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43 フランソワ=フレデリック·ギィ ミュライユの円熟を重ねた書法から、ピアニスティックな特性を――この上なく多様な形 式や楽器編成をあつかう広範な作品群を綜合するものとして――感じ取ることもありま すか? そのご質問に答える代わりに、ミュライユがオンド・マルトノ奏者およびピアノ奏者として研 鑽を積んだことに言及しておきたいと思います。彼は、ピアノを最大限に美しく響かせる方 法を心得ています。いっぽうで、管弦楽の分野での豊かな経験も、彼のピアノ書法に生かさ れています。じっさい彼は、ピアノの全音域を活用し、大編成の交響楽団のように鳴り響く ピアノ作品を書き上げています。これまで私は、沢山の“急進的な”作品を演奏してきました が、スペクトル音楽……とりわけミュライユの作品は、類まれに強烈で力強い音楽言語を拠 り所としています。それは、急進性を追求する音楽言語ではありませんし――むろん、急進 性それ自体は目的になり得ませんが――、根拠なく“新調性主義”へと回帰あるいは逃避し ようとする姿勢とは無縁です。私自身、そのような新調性主義には興味を抱けません。創造 者が“バックミラー”の中をのぞくことは、私には無益に思えます。スペクトル楽派のアプロー チは、ベートーヴェンが掲げた一連の理想にも通じます。彼は永久不変の衝動に突き動か され、プロメテウス的な次元で音楽について考察したのですから。
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