LDV110
42 ドビュッシー / ミュライユ 音楽的なナラティブについても、お話しいただけますか? 様式の統一性が、ナラティブを浮き彫りにするのではないでしょうか。それこそが、偉大な 作曲家の――そしてそもそも偉大な作家の――特徴です。時に、ミュライユの夢幻的な書 法は――千変万化する色彩と、音の空間化ゆえに――スクリャービンの晩年の書法を彷 彿させます。そのようなミュライユの書法は、スクリャービンの《プロメテ - 火の詩》やメシア ンの幾つかの作品と同じ様に、音楽に対する“共感覚”的なアプローチさえ連想させます。( ミュライユ本人は、そのようなアプローチについてじかに言及していませんが。) 収録曲について、かいつまんでご説明します。《印象、日の出》は、クロード・モネの同名の絵 画を示唆しています。印象主義が関係していることは確かですが、何かを模倣しようとする 意図はみられません。《メモリアル》は、ミュライユがベルリンのホロコースト・メモリアル(ホ ロコースト記念博物館)訪問後に構想した作品です。積み重ねられた冷徹な和音群が、下 降したのちに天へ昇っていき、強烈な感情を伝えます。小曲《人間嫌い》は、モリエールとリ ストからインスパイアされた心的状態とテンポが、唐突に急変していきます。この“メロドラ マ”を彩る一連の問いかけは、作曲家が自分自身と言葉を交わすモノローグを想像させま す。極めてヴィルトゥオジックな書法が展開される《恋するうぐいす》には、あらかじめコンピ ューターで解析された鳥の鳴き声が用いられています。 ミュライユの和声語法は特徴的で、他に類を見ません。彼の作品においては、音楽の美とデ ィスクールの美が前面に押し出されています。そして熟達を極めた様式のおかげで、何より も感情が優先されています。
RkJQdWJsaXNoZXIy OTAwOTQx