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40 ドビュッシー / ミュライユ 今しがた話題にのぼったリストは、近代のピアノ・テクニックの礎を築いた人物の一人で すね。ミュライユの鍵盤作品で用いられているテクニックについては、どのようにお考えで すか? 私は最近、ミュライユの2つの新作――本盤でお聞きいただける《メモリアル》と《再湧 出》――を初演しています。2つは独立した作品ですが、同じ曲集に収められています。《再 湧出》を支えている“モデル”はリストの《エステ荘の噴水》ですが、ミュライユは、ローマ近郊 のティヴォリにある有名なエステ荘ではなく、彼自身の家からほど近いヴォクリューズのソ ルグ川に材を取っています。ただし《再湧出》は、《エステ荘の噴水》よりもいっそう、描写音 楽とはかけ離れたところにある音楽です。あらゆる偉大な作曲家の作品がそうであるよう に、リストとミュライユの作品も、描写音楽の次元をはるかに超えています。ミュライユの音 楽を演奏する上で重視すべきは、流動性です。聞き手は流動性のおかげで、華麗な走句や 交替する和音にひそむ超絶技巧の存在を忘れることになります。《メモリアル》の重層的な 音楽は、大がかりな跳躍進行を奏者に突きつけますが、それも聞き手の耳に気づかれては なりません。《メモリアル》は、ピアノという楽器を知り尽くした人物によって書かれた音楽で す。ミュライユ自身が“比例書法”と呼ぶ書法においては、音符が、全体的な律動を示す視覚 的な目印と関連づけられながら配置されています。それによって彼は、リズムの正確さを大 いに維持しながら、ある種の“書き記された”自由と戯れることができるのです。そこではす べての要素が――ドビュッシーの楽譜のように――細心綿密に明記されています。演奏者 は、この自由を規則的な律動の枠内で感じながら、一つ一つのリズム的・旋律的なディティ ールを完璧に音で具現しなければなりません。

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