LDV109
45 フィリップ·ビアンコーニ そのリリシズムは、何に由来するのでしょうか? 彼の極めて緻密な書法は、一見すると、完璧で正確な演奏を奏者に求めています。すべて が非常に明快で、寸分の狂いなく配置されているからです。そのため、若い頃の私の主たる 関心は、サウンドや音色に磨きをかけることに向けられていました。当時の私は、リリシズム がラヴェルの音楽にどれほど不可欠であるのかを理解していませんでした。彼の作品では、 リリカルな要素が自発的に湧き起こることはありません。だからといって彼は、それを抑制 してもいません。彼は、リリカルな要素を自身の内奥に探しに行きますが、それを手付かず のまま提示することはしません——綿密かつ的確に曲線を引き出しながら、念入りに形を 与えています。彼のほとばしるフレーズは、深く率直であるいっぽう、その書法は厳密に制 御されています。このリリシズムは、《高雅で感傷的なワルツ》において、最も遅いテンポのワ ルツ——とりわけ第2曲——の中にさえ見出されます。そして、このような完璧な輪郭をも つフレーズは、全く異なる手法ではありますが、〈オンディーヌ〉の旋律の中にもみとめられ ます。そのとき奏者は、危うい均衡の上に立たされます。表情の豊かさと自然さと気品のあ いだで繊細にバランスを取らなければならないからです。最も気品が必要とされるラヴェル の曲を一つ挙げるとすれば、それは間違いなく《高雅で感傷的なワルツ》でしょう! この 曲集のワルツは、それぞれ対照的であるにもかかわらず、曲集としての堅固な一貫性を形作 っています。第7曲は《ラ・ヴァルス》を予示しており、終曲は夢にたとえられます。この夢幻的 な名曲では、半睡状態の私たちが気づく間もなく、プルーストの追憶のように幻影が現れ ては消えていきます。
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