LDV109
41 フィリップ·ビアンコーニ あなたが〈フーガ〉や《ソナチネ》から感じ取る孤独感は、ラヴェルの他の曲にも内在してい るのでしょうか? 私が思うに、ラヴェルは心の奥に大きな孤独を抱えていました。それは彼の多くの作品、とり わけ〈悲しい鳥たち〉(《鏡》)が描く景色から感じ取ることができます。私は孤独感の存在に 気がついたときに、《鏡》の暗い側面を初めて受けとめました。〈蛾〉の捉えどころのない不連 続性、儚(はかな)い詩情、移ろいやすさの背後には、鉛のような重みが隠されています。〈道 化師の朝の歌〉は寂しいポートレート(肖像画)であり、そこでは苦渋と悲劇が前面に押し 出されています。〈海原の小舟〉は海の風景を見つめる音楽であるだけでなく、孤独を表現し てもいます。確かに、そこには舟がありますが、私が思うに、それは空っぽの舟です。広大な 海にぽつんと浮かぶ一艘の舟を眺める私たちのまなざしが、人間的な感情を呼びさますの です。それは孤独のメタファーであり、物への投影です。不安を掻き立てる暗いエピソードに 貫かれたこの曲において、私たちは何かを感じ・体験します。ノスタルジックな終曲〈鐘の谷〉 は、彼方にある何かを、やや超然と眺めています。
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