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40 ラヴェル / ピアノ独奏曲集 第一次世界大戦中に書かれた《クープランの墓》は、戦争の悲劇の傷跡をとどめているの でしょうか? あるいは反対に、この曲集に収められているのは——ウラジーミル・ジャン ケレヴィッチが『ラヴェル』の中で論じたとおり——“六つの冷静に微笑む麗らかな舞曲” なのでしょうか? ラヴェルは大戦勃発の直前に着手した《クープランの墓》において、深く敬愛していた18世 紀の音楽にオマージュを捧げています。各楽章はそれぞれ、前線で命を落とした軍人に献呈 されていますが、ラヴェルが献呈者の名を追記したのは作曲を終えた1917年であり、献呈 と曲の内容は、ほとんど、あるいは全く無関係です。そもそも、どの楽章も、戦争からインスパ イアされて書かれたわけではありません。《クープランの墓》は、悲しく痛ましい音楽ではあり ませんし、悲劇的な音楽とも言えません。“冷静に微笑む”?……いいえ、そうではないと思い ます。私から見れば、全く微笑んでいないのは〈フーガ〉だけです。このフーガの捩(よじ)れた ような主題は、休符によって中断されています。この主題に続いて、優しく、歌うような、より 丸みを帯びた輪郭の対主題がすぐに現れます。この禁欲とリリシズム(抒情性)の対立が痛 ましい緊張感を生み、その結末は大いなる孤独感をさらけ出します。
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