LDV109

39 フィリップ·ビアンコーニ ラヴェルを初めて録音なさったのは30年ほど前ですね。当時の録音をどのように受けと めていますか? じっさいに聞いてみると、今もなお感情を掻き立てられますが、同時に、自分のラヴェルに対 する見方が大きく変化したことも実感します。今回の新録音は、これまで私がラヴェルの作 品とのあいだに築いてきた関係性を、より強固で、より個人的なものにしてくれました。私は、 今回もラヴェルの音世界の中に喜びを見出しましたが、いっぽうで、彼の音楽の暗い側面と 真正面から向き合うことにもなりました。時とともに、そして今回の録音の準備期間中に、私 は、以前の自分が彼の音楽を割と一様に、輝かしく“昼行性”で明るい音楽と捉えていたこと に気がつきました。彼の音楽の、暗く、時に悲劇的な側面は、《左手のための協奏曲》と《夜の ガスパール》の中にだけ存在するわけではありません。今日の私は、この側面をより鋭敏に感 じ取っています。たとえば《鏡》や《ソナチネ》の幾つかの曲は、一見、かなり晴れやかな印象 を与えます。しかし、閉ざされた世界である《ソナチネ》では、孤独感にも似た特異な感覚と、 圧倒的な高揚の瞬間が同居しています。第1楽章には悲しみを誘うエピソードがあります。 ある種の猛威に取りつかれたトッカータ形式の終楽章は、最後に勝利の雄叫びを響かせな がら、一種の解放に至ります——この熱狂が全てを猛烈な音で爆発させ、全てを影から引 き離して光のほうへ引き上げるのです。《ソナチネ》は雲がかった空のようですが、最後に雲 は一掃されます。同様に、高音がきらめく《水の戯れ》も、もはや私の耳には、さほど一様に明 るくは響きません。なぜなら、この曲が差し出しているのは、まばゆいパッセージと重苦しい 停滞が成すコントラストだからです——冒頭の主題が回帰するさい、バスの音に耳を傾けて みてください! さらに、明るく穏やかな〈メヌエット〉(《クープランの墓》)の中間部(ミュゼッ ト)が、暗さと心揺さぶるドラマを隠しもっていることは言うまでもありません!

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