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38 バレエ 《ラ・ヴァルス》は複雑な作品です。今回お弾きになったのは、どのピアノ版ですか? そ の版について、どのようにお考えですか? 《ラ・ヴァルス》はディアギレフからの依頼で生まれました。ラヴェルがまず完成させたの は、オーケストレーションに関する書き込みが入ったピアノ独奏版です。これはディアギレ フに聞かせるために書かれたものです。その後に管弦楽版と2台ピアノ版が出来上がりま した。後者には、明らかに管弦楽的な効果がみとめられます。私は、この管弦楽的なサウン ドを再現するため、これら二つの版を参照しながら、初版(ピアノ独奏版)に補筆しました。 私は《ラ・ヴァルス》を悲劇として捉えてはいません。私から見れば、この音楽にはウィンナ ー・ワルツの精神が染み込んでいます。また、一作品の中で舞曲が次々と変わり、それに合 わせて踊り手も、彼らの衣装も変わっていくイメージを抱いています。《ラ・ヴァルス》では、 一連の音楽的情景が順に提示されていきます。だからこそディアギレフは、“傑作だが、バレ エ向きではない。言うなればバレエを描いた絵画である”とコメントしたのでしょう。この音 楽はデカダンスの[退廃的な]香りをまといながらも、解放的で祝祭的であり、戦後の新た な世界を見つめています。それは、もはやウィーンの閉鎖的な輪の中には属していないワル ツです。ラヴェルはヒューマニストとして、この華麗なフィナーレをもつ音楽を世界に差し出 したのです。
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