LDV104
35 ジャン=バティスト·フォンリュプト これらの著しくピアニスティックな作品は、奏者に高度な超絶技巧を要求します…… いずれも奏者にとって“手ごわい”楽曲です。特に《「ペトルーシュカ」からの3楽章》は、3段 譜表、時には4段譜表で書かれており、確固たるテクニックが求められます。しかしながら、 この曲の書法が人間の手の限界を超えることはありません。ストラヴィンスキー自身がピ アニストだったからです。彼が書く譜面は、どれほど“演奏困難”な箇所であっても、物理的 に“演奏可能”なのです。この曲では、思慮深いヴィルトゥオジティが展開されてもいます。そ れは理性的に考え抜かれ・書き上げられたヴィルトゥオジティと言えるでしょう。この種の 作品は、ひとたび指にしっくり収まると、練習時にも演奏時にも奏者に大きな喜びを与えて くれます。 《「ペトルーシュカ」からの3楽章》は、オーケストラ的なサウンドを有しているのでしょう か? これはアルトゥール・ルービンシュタインからの依頼で作られたピアノ組曲です。ストラヴィ ンスキーの意図は、オーケストラ音楽をそのままピアノに置き換えることではありませんで した。確かに原曲の楽器編成にもピアノが含まれているのですが、この独奏版では、ピアノ が、より打楽器的に扱われており、オーケストラとは別種のエネルギーを付与されています し、オーケストラには属さない種々の音色が聞こえてきます。ただし、ストラヴィンスキーと 同じくラヴェルとプロコフィエフもピアニストでしたから、彼らの作品では、しばしばオーケ ストラとピアノがともに用いられ、両者が互いに歩み寄り・似通います。ですから、ピアノ独 奏版に取り組むさいに、原曲のオーケストラ・スコアを参照する必要があることは明らかで す。本質的にピアニスティックな作品において適切な音色を見出すには、当然、想像力が物 を言いますから、そのような音色の探求が有意義であることは言うまでもありません。
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