LDV101

55 ターリヒ四重奏団 名指揮者であったヴァ―ツラフ・ターリヒは、20世紀の中央ヨーロッパを代表する傑出し た演奏家の一人として知られる。そして1964年に、彼の甥ヤンが、ターリヒ家の名を冠し た弦楽四重奏団を設立した。同アンサンブルは1975年に、チェコ・フィルハーモニー管弦 楽団の四重奏団となり、この栄誉に浴したことでたちまちに国際的な定評を得ることにな った。ターリヒ四重奏団の第二の本拠地となったのがフランスである。彼らは同国のカリオ ペ・レーベルに、モーツァルトからヤナーチェクまで、幅広い作品を録音した。それらは今日 もなお、模範的な名演の一つとして愛聴されている。現在はラ・ドルチェ・ヴォルタ・レーベ ルがこの伝統の灯を受け継ぎ、ターリヒ四重奏団のたゆみない“冒険”を後押ししている。 ターリヒ四重奏団は半世紀前に創設されて以来、メンバーの交代を経てきたが、当初の個 性と演奏スタイルは脈々と息づいている。その演奏は今も、自発的で豊かな表現、胸がすく ような意外性に富んだアタック、民俗的なリズムにおける絶妙なアクセント、非の打ちどこ ろのない正確さ、そしてまた、奇跡的に繊細な感性を特徴とする。長年にわたり、ターリヒ 四重奏団は音楽史を体現する存在であり続けてきた。その歴史は、ボヘミアの河川や城館 の記憶、おとぎ話や伝説に彩られており、チェコの人びとが――第一次世界大戦の直後に 国家として独立する以前から――抱いてきた情熱に満ちている。 輝かしい受賞歴を誇るターリヒ四重奏団の数々の録音では――彼らによるヤナーチェク の弦楽四重奏曲第2番《ないしょの手紙》の演奏と同じように――、音楽におけるもっとも 魅惑的な会話が交わされている。

RkJQdWJsaXNoZXIy OTAwOTQx